頭痛外来を担当していると、「頭痛よりも、目の症状のほうが困っています」とおっしゃる患者さんがおられます。片頭痛に伴う「前兆」とくに閃輝暗点(せんきあんてん)の話です。今回はこの前兆について、最新の研究結果(Jakobsen らによるREFORM study)も交えながらお話しします。

閃輝暗点とは何か

片頭痛の発作が始まる前後に、視界の一部がキラキラと光ったり、ギザギザした光の輪が広がったりする現象を閃輝暗点と呼びます。片頭痛患者さんのおよそ3分の1に、こうした「前兆」が現れることが知られています。視覚症状が最もよく見られますが、手足のしびれや言葉が出にくくなるといった症状が前兆として現れることもあります。

前兆は通常5〜60分程度で消えますが、その間の不便さは相当なものです。

「車を運転中に閃輝暗点が起きて、路肩に停めて回復するまで待つしかなかった。」

「仕事中に画面が見えなくなって、大事な会議を途中で抜けることになった。」

前兆のある片頭痛の方には、このようなことが起こり得ます。前兆は頭痛発作そのものとは別の問題として、患者さんの生活の質を大きく損なっています。

前兆を「その場で止める」薬はない

頭痛の発作を和らげるトリプタンや、近年登場したCGRP関連の急性期治療薬など、頭痛に対して有効な薬はいくつかあります。しかし・・・

閃輝暗点などの前兆が起きたときに、それをその場で止める薬は現在のところ存在しません。

このため、予防薬によって頭痛発作の回数がうまくコントロールされていても、前兆だけが残って日常生活に支障をきたしている患者さんもおられるのが現状です。前兆が予期不安となり、運転や外出を控えてしまう方もおられます。

予防薬は前兆にも効くのか

では、頭痛発作を減らすために使う「予防薬」は、前兆にも効果があるのでしょうか。

一般的には、予防薬によって片頭痛発作そのものが減れば、前兆の回数も連動して減ると考えられており、前兆に悩む患者さんには積極的に予防薬を処方することが多いです。

エビデンスの現状

「前兆の頻度を減らすこと」を主な目的(主評価項目)として、きちんとした比較対照試験(ランダム化比較試験:RCT)で検証した研究は、これまでのところ存在しませんでした。エビデンスとしてはまだ不十分な部分があったのです。

最新研究が示す「希望の光」

こうした状況のなか、2026年3月に発表されたばかりの研究(Jakobsen らによるREFORM study)が、注目すべき結果を示しました。

この研究では、月に2日以上の前兆がある片頭痛患者80名を対象に、CGRP受容体を標的とする注射薬エレヌマブ(日本での製品名:アイモビーグ)を24週間投与し、前兆の日数がどう変化するかを調べました。

治療前(ベースライン)

月平均8日の前兆。視覚症状(閃輝暗点)は参加者の95%に認められた。

Week 4(1か月後)

既に平均2.8日の有意な減少。早期からの効果が確認された。

Week 24(治療終了時)

平均4.9日の減少(61%減)。参加者の16%では前兆が完全に消失。

Week 36(治療終了12週後)

薬を止めた後も平均3.2日の減少が維持された。

研究結果を読む際の注意点

この結果は大変希望の持てるものですが、研究の性質上、いくつか留意すべき点があります。

研究デザインの限界

この研究は「オープンラベル単群試験」と呼ばれる形式で行われました。比較対照となるプラセボ(偽薬)群を設けず、全員が薬を投与されたことを知った上で参加しています。このため、薬の効果だけでなく、「治療を受けている」という心理的な影響(プラセボ効果)や、前兆の頻度が自然に変動する可能性などを完全に除外することはできません。

「エレヌマブが前兆を減らした」という因果関係を確立するためには、プラセボ対照のランダム化比較試験(RCT)が必要です。研究者たちもこの点を率直に認めており、今後の課題として、前兆を主要評価項目に置いたRCTの実施を提唱しています。

前兆で困っている患者さんへ

前兆を「その場で止める」治療薬はまだありませんが、予防薬を使用することで前兆の頻度が減る可能性はあります。特に今回の研究は、エレヌマブのような注射タイプのCGRP関連予防薬が前兆にも有効である可能性を、これまでで最も大規模な形で示したものです。

担当医へご相談ください

「頭痛はトリプタンで何とかなっているが、閃輝暗点だけがどうしても困る」という方は、ぜひ担当医にその悩みをお伝えください。現在の治療法の見直しや、予防薬の導入・変更を検討できる場合があります。

前兆による生活の支障は、「仕方がない」と諦めるものではありません。医師と相談しながら、あなたに合った治療の選択肢を一緒に探していきましょう。

このコラムのまとめ

・閃輝暗点などの前兆は、片頭痛患者の約3分の1に見られ、運転や仕事を困難にする。

・前兆をその場で止める薬は、現在のところ存在しない。

・予防薬で頭痛が減れば前兆も減ると考えられているが、前兆を主評価項目としたRCTはまだない。

・2026年の最新研究で、エレヌマブ(アイモビーグ)が前兆を約61%減少させる可能性が示された。

・オープンラベル試験という限界はあるが、前兆に悩む患者さんにとって福音となる可能性がある。

参考文献:Jakobsen JT, Karlsson WK, Christensen RH, et al. Effects of erenumab on migraine aura frequency: a REFORM study. J Headache Pain (2026). https://doi.org/10.1186/s10194-026-02338-7

本コラムは一般の方への情報提供を目的としており、個別の医療アドバイスではありません。治療については必ず担当医にご相談ください。

医療法人脳神経外科たかせクリニック