片頭痛の患者さんは、その約75%が女性と言われています。「生理のたびに必ず頭痛が来る」「年齢によって頭痛のパターンが変わってきた」── 外来でこうした声をうかがうたびに、片頭痛が女性の人生に深く関わっていることを実感します。今回は、なぜ女性に片頭痛が多いのか、そして急性期治療・予防治療をどう考えればよいのかを、最新の知見をもとに整理してお伝えします。

なぜ片頭痛は女性に多いのか

子どもの頃は、男女で片頭痛の頻度に大きな差はありません。ところが思春期を迎え、初潮を経験した頃から女性の片頭痛が急に増え始めます。20〜40代の働き盛り・子育て世代でピークとなり、閉経後に徐々に落ち着いていく ── これが女性の片頭痛のおおまかな経過です。
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この性差を生み出している主役が、女性ホルモン(特にエストロゲン)の変動です。
▍ エストロゲンと「三叉神経血管系」

片頭痛は、脳の表面を走る三叉神経と血管のネットワーク(三叉神経血管系)が過敏になることで起きると考えられています。エストロゲンはこの神経・血管に直接作用し、その感受性を調整しています。月経の直前、エストロゲンが急に下がるタイミングで片頭痛が起きやすいのは、このしくみが大きく関わっています。妊娠中(エストロゲンが高く安定)に頭痛が軽くなる方が多いこと、閉経後に頭痛が落ち着く方が多いことも、同じ理屈で説明できます。

女性は「CGRP」の影響を受けやすい

近年の片頭痛治療を大きく変えた立役者が、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質です。CGRPは三叉神経から放出され、片頭痛発作の引き金となる神経伝達物質です。

研究で分かってきたのは、女性では男性よりも血中のCGRP濃度が高く、CGRPに対する反応も強いということです。動物実験でも、CGRPを投与すると雌の方が雄よりも強く、長く片頭痛様の反応を示すことが報告されています。これも女性に片頭痛が多い理由のひとつと考えられています。

このCGRPの働きをブロックする新しい治療薬が、近年次々と登場しています。CGRP関連抗体薬(注射薬)と、ゲパント(飲み薬)です。臨床試験の解析では、これらの薬は男女ともに有効ですが、一部の解析では女性でより高い効果が示唆されており、女性の片頭痛治療の有力な選択肢となっています。


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ライフステージで変わる片頭痛

女性の片頭痛は、ホルモン環境の変化とともに姿を変えていきます。

思春期以降
初潮を境に発症・悪化する方が増えます。生理周期に連動した頭痛(月経関連片頭痛)を自覚し始める時期です。
月経時
月経開始の前後2日以内に起こる頭痛は、通常の片頭痛よりも重く、長く、治療が効きにくい傾向があります。生理痛と重なって生活への影響が大きい時期です。
妊娠中
エストロゲンが高く保たれるため、多くの方で片頭痛が軽くなります。ただし前兆のある片頭痛の方や、月経関連片頭痛の方では改善しにくいことも知られています。
授乳期
産後はホルモンの急変で頭痛が再発しやすい時期です。授乳中も使える薬は限られますが、選択肢はあります。
更年期
ホルモンの揺らぎが大きい時期で、一時的に頭痛が悪化することがあります。閉経後は落ち着く方が多いものの、個人差があります。

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女性のための急性期治療

頭痛が起きたときに使う「急性期治療薬」は、男女ともに同じ薬を使うのが基本ですが、女性ならではの注意点があります。

トリプタンは片頭痛の急性期治療の標準薬です。女性でも男性でもよく効きますが、研究によると女性では24〜48時間後に頭痛がぶり返す(再発する)ことが男性より多いと報告されています。月経時の発作は特に治療抵抗性で、トリプタンの使用量が増えやすいため、注意が必要です。

月経時の頭痛には、ナプロキセンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)も有効です。生理中に増える「プロスタグランジン」という物質が頭痛にも関わっているため、NSAIDsは生理痛と片頭痛の両方に効くことが期待できます。

ゲパント(リメゲパントなど)は、血管を収縮させないため、トリプタンが使いにくい方にも使える新しい選択肢です。月経関連片頭痛にも有効と報告されています。


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▍ 月経時の頭痛が重い方へ

「月経のたびに必ず重い頭痛が来る」という方は、あらかじめタイミングを見越して短期予防するという方法もあります。月経開始の数日前から数日間、薬を予防的に飲むやり方で、海外ではフロバトリプタンなどで有効性が示されています。日本では保険の運用に制限がありますので、担当医とご相談ください。

女性のための予防治療

月に何度も頭痛があり、急性期治療だけでは追いつかない場合は、頭痛の回数そのものを減らす「予防治療」を検討します。予防治療は数か月〜年単位で続けることが多いため、妊娠の可能性や将来の出産計画を含めて薬を選ぶ必要があります。

主な予防薬には次のようなものがあります。


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予防薬の中には、妊娠中に使えないものや、妊娠の数か月前から計画的に中止する必要があるものがあります。「いつか妊娠したい」とお考えの方は、薬を始める前・続けている途中のいずれの段階でも、必ず担当医に妊娠の希望をお伝えください。薬の選び直しや中止のタイミングを一緒に考えます。

妊娠中・授乳中の薬との付き合い方

「妊娠したら頭痛薬は一切飲めない」と思い込んで、頭痛を我慢してしまう方がいらっしゃいます。実際には、使える薬・使えない薬を正しく区別すれば、妊娠中・授乳中でも頭痛を治療することは可能です。

妊娠中の急性期治療では、アセトアミノフェン(カロナールなど)が第一選択とされてきました。最近、長期使用の影響について議論はありますが、適切な範囲での使用であれば現在も推奨されています。NSAIDsは妊娠初期・後期は避ける必要があります。トリプタンの中ではスマトリプタンが、胎盤を通過しにくい性質から、必要時には比較的安全に使用できると考えられています。

授乳中は、アセトアミノフェン・イブプロフェンが安全に使えます。スマトリプタンやエレトリプタンも、母乳への移行が少なく、使用可能とされています。ゲパントも、服用後8〜12時間あけて授乳することで使えるとの報告があります。

▍ ひとりで判断せず、ご相談ください

妊娠中・授乳中の薬の選択は、頭痛の重さ・赤ちゃんへの影響・お母さんの生活の質を総合的に考える必要があります。「市販薬を飲んでもよいか」「処方薬を続けてよいか」など、迷われたときは自己判断せず、頭痛外来や産婦人科にご相談ください。

▍ まとめ

● 片頭痛は患者さんの約75%が女性を占める、女性に深く関わる病気です。

● 背景にはエストロゲンの変動と、それに伴う三叉神経血管系・CGRPの感受性の変化があります。

● 急性期治療では、月経時の頭痛が重いことを踏まえて、トリプタン・NSAIDs・ゲパントを使い分けます。

● 予防治療では、妊娠の希望や授乳の状況に合わせて薬を選ぶことが大切です。

● 「人生のステージごとに、頭痛との付き合い方も変わってよい」── そう考えて、一緒に治療を組み立てていきましょう。


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医療法人脳神経外科たかせクリニック