片頭痛と運動の悩ましい関係
「運動すると片頭痛が悪化しそうで怖い……」そう感じている方は多いのではないでしょうか。実は、上手に運動を取り入れることで、片頭痛の回数や痛みが減り、生活の質が大きく改善することが、最新の研究でわかってきています。このコラムでは、運動と片頭痛の関係について、わかりやすくお伝えします。
運動は片頭痛の「予防薬」になる
「運動が体に良い」というのは広く知られていますが、片頭痛に対しても同様です。有酸素運動(ウォーキング、水泳、軽いジョギングなど)を定期的に行うことで、片頭痛の頻度・痛みの強さ・持続時間が減ることが、多くの研究で報告されています。
📊 研究からわかっていること
複数の臨床試験をまとめた解析(メタアナリシス)では、週3回ほど中等度の有酸素運動を続けることで、片頭痛日数が30〜50%減少することが示されています。これは、一部の予防薬と同等の効果です。また、運動習慣のある片頭痛患者は、そうでない患者と比べて、片頭痛による生活障害(仕事の遅れや家事への支障など)が有意に少なく、生活満足度も高いことが報告されています。

(J Headache Pain 2023; 24: 68.よりNotebookLMにて生成)
では、なぜ運動が片頭痛を減らすのでしょうか。現在考えられているメカニズムとして、脳の血流改善、炎症を抑えるホルモンの分泌促進、睡眠の質の向上、ストレスホルモンの低下などが挙げられています。運動は体だけでなく、脳そのものにもプラスの変化をもたらすのです。
「運動すると頭痛が出る」-多くの片頭痛患者が経験する”逆説”
しかし、「運動が良い」とわかっていても、実際にはなかなか動けない方が多いのが現実です。その最大の理由の一つが、「運動したら頭痛になった」「動くと頭痛が悪化した」という経験です。
実際、片頭痛の診断基準の一つに「日常的な身体活動によって頭痛が悪化する」という項目があるほど、この問題は片頭痛の本質と深く関わっています。月に片頭痛が多い時期や、頭痛発作中は、ほとんどの方が運動どころではありません。ある研究では、月に片頭痛が3日を超えると、定期的な運動ができる確率が50%以下になることが示されました。片頭痛が多い方ほど、運動できない——という悪循環に陥りやすいのです。
⚠️ 注意:強すぎる運動は逆効果になることも
特に高強度の運動(激しいランニング、HIITなど)は、頭痛を誘発しやすいとされています。「運動 = 激しいスポーツ」ではなく、まずは軽〜中等度の有酸素運動から始めることが大切です。

(J Headache Pain 2023; 24: 68.よりNotebookLMにて生成)
なぜ激しい運動で頭痛が起きるのか—CGRPという物質の関与
片頭痛の発症に深く関わる物質に、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)があります。CGRPは脳の血管を広げたり、神経の炎症を引き起こす強力な神経ペプチドで、片頭痛発作時に増加することが知られています。
🔬 運動とCGRPの関係(研究より)
ある研究では、ハーフマラソン(21.1km)を走った後に血中CGRP濃度が約1.5倍に上昇することが確認されました。さらに興味深いことに、走るスピードが速いほど(=高強度になるほど)CGRPの増加が大きかったという結果も得られています。つまり、高強度の運動は片頭痛の”引き金”と同じ経路を活性化してしまう可能性があるのです。

(Clin Chem Lab Med 2020; 58: 1707–1712.よりNotebookLMにて生成)
これが、「激しい運動をすると頭痛になる」という経験の、科学的な背景の一つと考えられています。逆に言えば、強度を抑えた有酸素運動であれば、このリスクを最小限にしながら、片頭痛予防の恩恵を受けることができると考えられます。
一方で—CGRP薬と運動の相乗効果
近年、CGRPに関連した注射薬(CGRP関連モノクローナル抗体薬)や内服薬(ゲパント類)が、片頭痛の予防・治療に使われるようになってきました。そして最新の研究から、運動習慣のある片頭痛患者ほど、これらのCGRP関連薬に対する反応が良いことが報告されました(Phy-Fre-Mig試験)。特に、治療前のウォーキング量が多いほど、薬への反応率が高かったのです。

(J Headache Pain 2025; 26: 34.よりNotebookLMにて生成)
これは非常に示唆深い発見です。運動とCGRP関連薬は、互いに打ち消し合うのではなく、組み合わせることで相乗効果が期待できる可能性があります。
頭痛がひどくて動けない方へ—新しい治療の考え方
「運動が良いとわかっていても、毎月何日も頭痛があって、とても運動する気になれない」という方は少なくありません。そうした方へ、最新の研究をふまえた一つの提案があります。
💡 段階的アプローチの提案
まず、CGRP関連薬で頭痛日数を減らす
注射薬(月1回または3か月1回)または内服薬(毎日服用)によって、頭痛の頻度を安定してコントロールする。月4日未満を目安に。
頭痛が落ち着いてきたら、軽い運動から始める
1回30〜40分、週2〜3回のウォーキングや水泳などの軽〜中等度の有酸素運動をスタートする。
運動を習慣化することで、さらなる改善を目指す
薬と運動の相乗効果で、片頭痛の頻度・障害度の低下と、生活の質の向上が期待できる。

(Cephalalgia 2026; 46(4): 1–9.よりNotebookLMにて生成)
ある大規模コホート研究では、この考え方を裏付けるデータが示されました。月の片頭痛日数が多い患者(高負担群)は、うつ症状が強く、運動もほとんどできていない一方で、薬で片頭痛が安定した患者(低〜中負担群)は、運動できており、生活満足度も高かったのです。これは、「薬で頭痛を抑えてから運動する」という順序が、現実的かつ効果的であることを示唆しています。
おすすめの運動の種類と目安
ウォーキング:最も始めやすく継続しやすい。1日20〜40分から。
水泳・水中ウォーキング:関節への負担が少なく、強度の調節がしやすい。
自転車(サイクリング):屋内エアロバイクでも可。
ヨガ:呼吸・ストレッチ・リラクゼーションが組み合わさり、片頭痛への効果が報告されている。
強度の目安:「軽く息が上がる程度」(会話はできるが、少し頑張っている感覚)。
⚠️ 運動を始める前に
片頭痛の発作中や、強い前兆がある時は無理に運動しないでください。また、他の持病をお持ちの方は、運動を始める前に医師にご相談ください。体調に合わせて、焦らずゆっくり始めることが大切です。
まとめ
運動は片頭痛の強力な「予防手段」になり得ますが、頭痛が多い時期にいきなり運動を始めるのは難しく、むしろ逆効果になることもあります。まず薬で頭痛をコントロールし、安定したら徐々に運動を取り入れる——この順序が、長期的な改善への近道かもしれません。
片頭痛と運動について、気になることや不安なことがあれば、ぜひ診察時にご相談ください。あなたの状態に合った、無理のない計画を一緒に考えましょう。
【参考文献】
La Touche R, et al. Prescription of therapeutic exercise in migraine, an evidence-based clinical practice guideline. J Headache Pain 2023; 24: 68.
Sierra-Mencía Á, et al. Physical activity as a predictor of fremanezumab response in chronic migraine – the Phy-Fre-Mig study. J Headache Pain 2025; 26: 34.
Tarperi C, et al. Effects of endurance exercise on serum concentration of calcitonin gene-related peptide (CGRP): a potential link between exercise intensity and headache. Clin Chem Lab Med 2020; 58: 1707–1712.
Peles I, et al. Physical activity in migraine: Identifying an engagement threshold and patient clusters in a population-based cohort. Cephalalgia 2026; 46(4): 1–9.
















