〇認知症とは?

認知症とは、今まで普通に暮らしていた人が、もの忘れのひどい状態となり、もとの生活ができなくなることを指します。認知症には、アルツハイマー型認知症や血管性認知症、その他のものがありますが、一番多いのはアルツハイマー型認知症です。

アルツハイマー病にかかると、まず、朝ごはんを食べたかなど、数分~数時間前のことを思い出せないといった、記憶の遅延再生の障害が起こります。ついで、道に迷ったり、見たものの位置関係が分からなかったりする、視空間認知障害をきたします。さらに、今いる場所や時間が分からないといった、見当識障害が出現し、困ったことには、自分が病気であることを理解できないという、病態失認という症状が見られます。

 

〇認知症の初期症状

認知症の初期の症状としては、次のようなものがあり、注意が必要です。

  • 会話中に電話がかかってきて、電話を済ませた後で元の会話が思い出せない。
  • 電車に乗っていて目的地を忘れる。
  • 人と会う約束や日時を忘れる。

これらの症状は、脳に新たな情報をインプットできないために起こります。慣れているところで運転中に道に迷うといった、方向感覚の悪さも要注意です。ネクタイを結びにくいなど、着衣の乱れも認知症の初期症状とされます。

 

〇認知症と、加齢に伴うもの忘れとの違い

さて、外来に来られる多くの方が、自分は認知症ではないかと心配されます。人間は誰でも年齢とともにもの忘れはするものですが、加齢によるもの忘れと、認知症によるもの忘れには、次のような違いがあります。

加齢によるもの忘れでは、日常生活はほぼ支障なく、もの忘れを自覚しているのに対し、認知症ではもの忘れの自覚がなく、日常生活に支障をきたす点が、大きな違いです。

 

〇認知症の診断・治療

認知症が疑われる患者さんが来院された場合、まず、主にご家族から、日常生活の変化などについてお聞きします。次に、もの忘れの検査をします。これには長谷川式、ミニメンタルテストなどがあり、いろいろな質問をしてもの忘れの程度を見るものです。
さらにCTまたはMRIや、必要に応じてSPECT(脳血流の検査)、PET(脳代謝の検査)などの画像診断、そして血液検査が行われます。MRIで海馬の萎縮を解析したり(VSRAD)、脳血流の評価をすることもあります(3D ASL)。

CTやMRIといった検査は、後述する脳外科的な問題がないかどうかを調べるためのものです。認知症の診断には、ご家族や周りの方からの聞き取りと、ご本人への問診・診察が重要です。
状況によっては、アルツハイマー型認知症の診断を確定するために、髄液検査やアミロイドPETなどの特殊な検査が行なわれることがあります。

認知症の進行を防ぐため、環境調整とこころの刺激を行い、脳の機能を呼び起こすことを試みます。規則正しい生活のリズムを作ることや、人と接する機会を増やすことは重要とされます。ご家族や地域の方が関わって支援をすることや、生活習慣病に対する通院加療をしっかり行うことによって、認知機能が改善することも時に経験します。

薬物治療としては、脳の活動性を助けて活発になることで生活の質を改善させる薬や、神経の活動を円滑にさせて不快な症状を軽減する薬が使われます。これらは対症療法としての薬です。

最近、アミロイドβと呼ばれるアルツハイマー病発症の始まりとなるものを取り除くことで、認知症の進行を抑える薬が実用化されました。現状では薬の適応は早期のアルツハイマー病のみで、副作用の問題などもありますので、対象となる患者さんは限られています。今後、さらに新しい薬の開発が期待されています。

 

〇治る認知症?

治る認知症(treatable dementia)と呼ばれるものがあります。これには、脳外科手術などで治療可能なもの(慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、正常圧水頭症など)、ホルモンやビタミンを補うことで治療できるもの(甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症)などがあげられます。

もの忘れがひどくなってきた、と思われた方が適切な治療で回復することも、時にはあります。このため、一度は脳外科、神経内科、精神科などの専門医がいる病院やクリニックで、CTまたはMRI、採血などを含め適切な診断を受けることが重要です。特に1-2ヶ月、週単位など急に症状が進んでいる場合は、注意が必要です。

 

〇認知症を予防するにはどうするか

キーワードは知的活動、有酸素運動、社交性

暇な時間に何もしないでいるよりも、読書やクロスワードパズルなどをする人のほうが、認知症になりにくいとされています。さらに囲碁など、対戦相手がいるほうがより良いようです。本屋に行くときは、いつも立ち寄らないコーナーめぐりをしましょう。

有酸素運動・少し汗ばむ程度の運動が有効

週に3回、1回30分ぐらいのペースで運動することが勧められています。時間を見つけて、散歩やサイクリングをしてはどうでしょうか。水泳、ウォーキングなどよりさらに有効と言われているのが、ダンスや楽器演奏、合唱など、人と関わりあう活動です。

旅行はパック旅行ではなく、宿やレストランを自分で予約、電車の乗り換えも自分で調べてオリジナルの個人旅行をしましょう。

 

〇認知症予防のための食生活

生活習慣病を予防する食事として、地中海式ダイエットというものが注目されています。この地中海式ダイエットには、アルツハイマー病の予防効果もあるとされます。これは、

  • 野菜・果物・穀物・豆類を、毎日種類も量も豊富に食べる
  • オリーブオイルを多用する
  • 低脂肪の乳製品を、毎日少量摂る
  • 動物性脂肪は魚を中心に摂る

ことが特徴です。これに加え、毎日体を動かすことと、1~2杯の赤ワインを摂取します。ただし、飲みすぎは却って認知症の危険を増やします。
和食もまたバランスのよい食事ですが、漬物、醤油、味噌汁など塩分が多く、カルシウムが足りないので注意してください。

食事を作るときや食べるときも、やりかた次第で認知症予防になります。自分の手で食べるものを用意すること、どんなメニューが良いか自分で考えること、実際に自分で調理することを心がけてください。そして食べるときは、量を調節して、腹八分目におさえ、外食時など、量が多いときには少し残すことが大事です。

 

〇うつでもの忘れ?

うつ病により、興味の減退・意欲低下や思考力低下・集中力低下が起こることがあります。特に高齢の方がうつ症状をおこした場合、認知症との区別が難しいことがあります。また認知症に対する薬の副作用で、うつの症状が現れることもあります。

うつ病は治すことができますが、アルツハイマー病などの認知症が治ることはほとんどどありません。このため、高齢の方がうつ症状をきたしてもの忘れを訴えられるときは、精神科や心療内科に受診する必要があります。

 

〇アルツハイマー病の危険性を増す病気

高血圧症、糖尿病、脳梗塞、頭部打撲などが、アルツハイマー病の危険因子として知られています。特に、高血圧症や糖尿病など生活習慣病は脳梗塞の危険因子であることが明らかなのですが、小さな脳梗塞を繰り返すことで認知症となることがあります。

認知症予防のためには、中年期のうちから高血圧症や糖尿病などをきちんと治療することが重要であることが、明らかになってきています。健康診断などを定期的に受け、若いうちから健康管理に努めることが奨められます。

 

〇認知症はこわくない? みんなで理解を深めましょう

人間は誰でも、年齢とともにもの忘れをするようになります。そして80歳代の後半になると、約半数の方が認知症の領域にはいるとされています。

実は神経病理の世界では、正常老化とアルツハイマー病的変化とは連続しているものとみなされています。そして認知症をきたす病気の確定診断は、脳病理診断つまり解剖によって行われます。ゆえに生きている方に対しては、認知症であると確定診断することはできないのです。

2019年現在、認知症に対する薬は4種類ありますが、その効果は限定的で認知症それ自体を治すものではありません。アルツハイマー病など認知症かどうか、診断をつきとめ治療をしようとすることには、あまり大きな意義はないのかも知れません。

認知症になったからと言って、何もかも分からなくなるわけでは決してありません。また認知症になってもの忘れが強くなっても、喜怒哀楽の感情はしっかり残っていて、その人らしさが失われるわけではありません。

忘れてもいい、できなくてもいいのです。もの忘れが強くなっても、その人にできることはまだ色々あります。地域や家庭の中で役割を持ち、生きがいを持って生活を続けることは可能です。必要あれば介護サービスなども利用し、張り合いのある日々を送れれば良いのではないでしょうか。

私達は皆いずれ歳をとり、いずれは認知症となっていきます。恐れるのではなく、正しい知識を身につけていくことが大切と言えます。

医療法人脳神経外科たかせクリニック